キャッシュフローに基づく企業評価の流れを概観しておこう。前章で述べたように、アメリカのビジネス・スクールの「企業財務論」(コーポレート・ファイナンス)のコースではキャッシュフローに基づく投資価値の評価をまず学ぶわけであるが、これまで、この考え方は、二つの分野で用いられていた。一つは、企業経営者サイドであり、期待キャッシュフローに基づいて企業の投資プロジェクト案件を評価し、選択するという形で用いられてきた。もう一方は、投資家の立場であり、前章で述べたように、証券アナリストが株式の価値を評価する際に、株主が受け取るキャッシュフローである配当の予想値ないし配当支払い能力をもとに理論株価の計算を行う「配当割引モデル」という形で利用されてきた。これまで再三述べてきたように、アメリカの企業経営のパラダイムは、企業価値最大化を目的に企業活動を行うということである。(中略)
株式会社では、経営者は株主から株価最大化を目的に経営を委託されているが、株価最大化とは企業価値の最大化であり、後述するように企業最大化は企業の投資リターンを高めることによって実現される。このように、個々の企業が投資収益性が高い事業を行うことによって、経済全体が成長・発展するというのが市場型資本主義のロジックに他ならない。株価最大化というと株主という一部の人間の利益のみを考えた経営であり、偏った考え方であると日本人は受け取りやすいが、実は企業がそのようなディシプリンにのっとって経営されることが社会全体の効用を高めるという経済社会の編成原理なのである。
(「第4章 新しい価値評価尺度」より抜粋)
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